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農家経済調査データベース

概要

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一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センターでは、京都大学に保管されている戦前期の農林省農家経済調査資料について、データベース編成作業をおこなっています。

農家経済調査とは、帝国農会、農商務省、農林省によって1913年から実施された、農家の経営・経済活動についての統計調査です。 調査対象農家は各都道府県から自作・自小作・小作別に抽出された複数の農家で、その調査事項は、農家の生産活動に関するものの他、家計の所有財産や消費に関するものなど多岐にわたります。 調査結果については、全国集計分が各年度版として刊行されており、農家の経済状況の概況を年度ごとに調べることが可能です。

 

進捗状況

資料の個票からパネルデータを編成する作業が1931(昭和6)年から1941(昭和16)年にかけての分が完了しました。この期間は、農家経済がちょうど昭和恐慌の深刻な影響を受けた時期から回復過程を経て戦時期へと突入する時期に該当しています。現在、戦前直前から戦後期にあたる1942(昭和17)年から1948(昭和23)年の期間についてデータ編成作業を行っています。

 

研究成果

編成済みデータを利用した試行的研究がおこなわれており、主に以下のような研究成果が得られています。

● 労働力に関する研究では、夫の農業労働に対して妻の農業労働は正の弾力性を持つ一方で妻の家事労働は負の弾力性を持つ結果が得られており、生産的労働を増加させた場合に家事が犠牲にされる傾向が示唆されています。また直系家族型の家族周期が妻の労働に影響を与えていたことが示されています(斎藤 2009)。

● 現物消費に関する研究では、養蚕業が衰退していたこの時期の養蚕農家は別の農産物生産への転換の過程で生計を成り立たせるために食料の現物消費を増やしたことを示唆する結果を得ています(尾関 2009)。

● 資産蓄積に関する研究では、経営面積が2 町歩程度に収斂する傾向にあったものの、主に世帯構造の変化に合わせて調整されており、農地の所有構造には影響されていなかったという結果が得られています。また、農家の予備的貯蓄行動によって、現金・準現金、現物などの比較的流動性の高い資産の蓄積を重視し、固定性の高い資産への投資には消極的になった可能性が指摘されています(草処・丸・高島 2012Kusadokoro, Maru and Takashima 2015)。

● 農業生産関数の計測結果では、1930年代の日本の農業生産は規模に関して収穫逓減であったこと、生産技術的には2町歩程度の経営農地規模が効率的であったこと、また全要素生産性は1930年代前半に昭和恐慌から回復したのち、戦時期に突入する後半には再び成長が鈍化する傾向にあることが示されています(Maru, Kusadokoro and Takashima 2015)。

● 教育費と医療費に対する資産効果に関する研究では、昭和恐慌後において医療費について短期の資産効果が確認されたが、教育費では、短期、長期共に資産効果が認められないということが示唆されています(草処・丸・高島 2016)。

● 酒と煙草の消費支出に関する研究では、酒と煙草の両方とも習慣性の強い財ではあるが、この時期の日本農村部では酒は社交のツールとしての性質が強く、それゆえ酒の支出パターンには農家の持つ社交性の高低が影響を与えていた。また、個人的な強い消費嗜好性を持つ煙草については、農家の社交性との関連は示唆されなかった(丸・草処・高島 2018)。

 

刊行物

これまでに、一連のデータベース編成作業における研究成果として、『農家経済調査データベース編成報告書』を8冊刊行しています。各報告書の詳細は、センター刊行物のページをご覧ください。また、必要な方は当センターにご連絡ください。

その他にも農家経済調査データベース編成作業中におこなった試行的研究成果が刊行されています。

● 尾関学・佐藤正広(2008)「戦前日本の農家経済調査の今日的意義 ―農家簿記からハウスホールドの実証研究へ―」『経済研究』Vol. 59、No. 1、pp. 59-73。

● 尾関学 (2009)「両大戦間期の農家現物消費 ―予備的考察―」『経済研究』Vol. 60、No. 2、pp. 112-125。

● 斎藤修 (2009)「農家世帯内の労働パターン ―両大戦間期17農家個票データの分析―」『経済研究』Vol. 60、No. 2、pp. 126-139。

● 浅見淳之 (2012)「戦前期農家経済調査の簿記デザインの変遷」稲本志良編集代表『農業経営発展の会計学 ―現代、戦前、海外の経営発展―』昭和堂。

● 草処基 (2012)「耕種・養蚕複合経営の生産技術の計測 ―戦前期農家経済調査の変遷と計量分析―」稲本志良編集代表『農業経営発展の会計学 ―現代、戦前、海外の経営発展―』昭和堂。

● 草処基・丸健・高島正憲 (2012)「昭和恐慌からの農村復興期における農家の資産蓄積行動 ―農林省第3期農家経済調査パネルデータによる分析―」Global COE Hi-Stat Discussion Paper Series、No. 231。

● Maru, Takeshi, Motoi Kusadokoro, Masanori Takashima (2015) "Productivity and the Growth of Japanese Agriculture in the 1930s: A Panel Data Analysis Using a Survey of the Farm Household Economy," PRIMCED Discussion Paper Series, No. 71.

● Kusadokoro, Motoi, Takeshi Maru, and Masanori Takashima (2016) "Asset Accumulation in Rural Households during the Post-Showa Depression Reconstruction: A Panel Data Analysis," Asian Economic Journal, Vol. 30, No. 2, pp. 221-246.

● 草処基・丸健・高島正憲 (2016)「昭和恐慌からの回復期における農家の教育・医療支出」『農林業問題研究』Vol. 52、No. 3、pp. 97-104。

● 丸健・草処基・高島正憲 (2018)「両大戦間期日本における農家の酒・煙草支出 ―農林省第3期農家経済調査(1931-41年)を用いたパネルデータ分析―」『経済研究』Vol. 69、No. 2、pp. 115-128。

● 草処基・丸健・高島正憲・斎藤修 (2020)「戦間期日本における農家の世帯人口の変動と労働配分」『経済研究』Vol. 71、No. 1、pp. 83-101。

 

外部利用について

農林省第3期(1931~1941年)のパネルデータに関する外部利用については、下記の問合わせ先にご連絡ください。

 

問合せ先

農家経済調査データベースに関するご質問は、農家経済調査担当までお問い合わせください。
E-mail : noukei[at]ier.hit-u.ac.jp ([at]を@に変換してください。)